達人伝 ~9万里を風に乗り~ ブックレビュー


「達人伝」は古代中国の春秋戦国時代後期を描いた作品である。作者である王欣太は前作「蒼天航路」で1998年に講談社漫画賞一般部門を受賞しており、本作品はその流れを組む古代中国を描いた内容になっている。

本作品の特徴を分かり易く表現すると現在週刊ヤングジャンプで連載されている「キングダム」とは逆の敵側の視点から描かれている作品である。

つまり、キングダムは秦国が中華統一を目指すストーリーであるが、達人伝は秦国以外の国々が結集して中華統一に抗うストーリーになっている。

当時の中国は多くの国から成り立っていて、時代によって強国が発生するとそれ以外の国々が連合国家となり対応するという図式が長く続いていた。そのようなカオスな時代環境において、多様で魅力のある価値観や人材が生まれることになり、後世に語り継がれる物語となったといえる。

2000年以上前の物語であることから、利害関係なしにフラットな視点で語ることが出来ることも利点であり、キングダムや達人伝のような作品群が生まれてくる理由になっていると思われる。達人伝はそのメリットを理解していて、最大限生かしている作品である。

通常、戦国時代を漫画で描く場合は戦闘シーンがメインに描かれるが、本作品においてはそれに加えて登場人物達の持つ価値観のぶつかり合いが描かれており、物語の柱のひとつになっている。

このような内容はイデオロギーや思想に触れてゆくため表現が難しいと思われるが、作者はこの部分の処理が抜群に上手い。数回読み返してみて気づきを得られるようになっている。

個人的に本作品のなかで一番魅力あるキャラクターだと感じているのは、のちの始皇帝の父(と言われている)呂不韋で、商人でありながら無名の皇子であった息子始皇帝を秦国に送り、自身はフィクサーとなって政治を司った人物である。

達人伝ではこの人物が実に爽やかに描かれている。きわめて有能な敵を作らない好人物であるが、僕はこの設定はとてもリアルであると感じている。

フィクサーというのは悪人として描かれることが多いが、そんなに嫌われるようであれば本来成立しない立場であろう。悪とは目に見えないものであり、場合によっては本人もそれに気付かない場合も多い。

目に見えず理解しにくいからこそ悲しい出来事が不可避的に起きてゆき、時にはそこから喜劇的な要素すら生まれる。本作品はそのような物語が生き生きと描かれている。

 

達人伝 1

 

まとめ

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